これは賃上げなのか?『借り上げ社宅』を不動産投資家目線で考える
第3の賃上げ『借り上げ社宅制度』とは
借り上げ社宅制度が話題になった背景
つい先日、ワールドビジネスサテライトで取り上げられていたようでX(旧twitter)でも第3の賃上げとして話題になっていた『借り上げ社宅』について解説したいと思います。
本題に入る前に、前提として、記事執筆の2024年2月現在、日本政府は物価高を上回る所得増、つまり賃上げ実現を政策に掲げて様々な施策を打っています。2023年は大手企業を中心に多くの会社が賃上げの発表をしました。
賃上げには2種類ある
賃上げとは、企業が従業員に支払う賃金を引き上げることで、定期昇給とベースアップという2つがあります。
定期昇給(定昇)
企業が定めた基準に沿って定期的に行われる昇給で、主に従業員の勤続年数や年齢、評価の結果等に基づいて昇給額が決定される。
ベースアップ(ベア)
全従業員に対して一律で行われるベース(基本給)のアップ。つまり全体的な底上げの事を指す。インフレ時、物価に対して賃金の水準が低く、労働者の生活への支障が懸念される場合に行われる。
第3の賃上げとは?
このふたつに次いで、「第3の賃上げ」と呼ばれているのが従来の給与による賃上げではなく「福利厚生による賃上げ」なのである。
そして福利厚生である「借り上げ社宅制度」がこれに当たるとして話題になっているのだ。更に、この制度自体、大手企業や外資系企業に導入例が多い事も賃上げに苦しむ企業や経営者、はたまた従業員に取っても見過ごせない話題だという事であろう。
「借り上げ社宅制度」はなぜ賃上げになるのか?
借り上げ社宅と聞くと皆さんがイメージする、企業が住宅を借り上げて従業員に提供するものです。社員寮や住み込みのイメージを持つ人もいるかも知れません。住宅手当や補助の福利厚生で、会社が家賃を一部または全部を負担する事により制度を利用する従業員に経済的な還元をするものです。
これが賃上げ?と思われるかも知れません。もう少し深掘りします。仮に企業が住宅手当のようにコスト負担をせずとも、従業員に代わって賃貸住宅を借りて、その費用を会社が払い、対象者の給与から家賃の半額を現物支給分として減額し、半額は給与から天引きするスキームです。勘のいい人はわかったかも知れません。社宅扱いで現物支給した分は給与から減額されます。そしてさらに半額は自己負担として控除(天引き)されるので、その分の所得税、住民税が課税されず、社会保険料も抑える事ができるのです。これは「借り上げ社宅」を利用した節税スキームなのです。これにより従業員は、家賃支払い後の可処分所得、つまり手取りは増加します。これが「第3の賃上げ」と呼ばれている理由です。私の意見ですと、賃上げではなく節税ですね。
従業員にも企業にもメリットのある節税スキームの正体
更に私が驚いたのが、このスキームを導入した企業自体にもメリットがあるという点です。それは企業が支払う社会保険料も抑える事が出来るからです。社会保険料は従業員に支払う給与がベースで算出されますので当然の事です。このスキームによって「賃上げ」同様の手取りアップと従業員満足度を高めることが出来るのです。しかもコスト負担どころかコスト削減メリットがありながらです。
このような節税スキームが認められるのかという点ですが、国税庁ホームページにしっかりと掲載されていました。家賃の半分というのは法令で定められているもので、国税庁お墨付きの節税スキームだったのです。
国税庁|タックスアンサー No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
freee福利厚生で借り上げ社宅制度の導入支援サービスが受けられる
そして私が調べる中で、会計や人事労務などのクラウド型バックオフィスのfreeeが「freee福利厚生」として借り上げ社宅制度の導入支援を行っている事を知りました。上記スキームをわかりやすく図で説明されています。
※freee福利厚生より
借り上げ社宅制度の驚きの節税効果
サイトにはコスト削減効果のシミュレーターもありました。
例で試算すると、
月給50万円 家賃補助なしの人で手取りの増加効果がなんと年間で¥207,218
会社の社会保険料の支払い削減効果が年間で¥101,520にもなることがわかりました。
私の感覚ですとこの分の手取りが増えるのはとても大きく、もう賃上げと認めてもいいのでは?と思いました。
企業にとっても、ひとりでこの削減効果ですから、大企業に限らず中小企業の経営者にとっても見逃せない制度ではないでしょうか?
※freee福利厚生より
このすごい制度について、早速お世話になっている税理士の先生に聞いたところ、この制度は外資系や大手企業でよく聞きますよとの事でした。やはり強いところは抜け目なく賢くやっているのですね。
不動産投資家としては、このような制度がある事を認識しておくことが重要で、今後利用する企業が増えて行くかもしれないという部分にチャンスを感じました。また入居者募集、特に新築1棟などをやられている投資家については、このようなニーズをピンポイントで狙っていく事も面白いのではないかと妄想しました。